はじめまして,リクルートATL(アドバンスドテクノロジーラボ)でXR(AR/VR/MRなどの総称)領域の研究を行っている長坂です.ATLでは,最新XRデバイスを活用した新規価値検証に取り組んでいます.今回は,最新XRデバイスを活用したバーチャルモニター環境下の作業生産性について紹介します.

はじめに

近年,PCやスマホと接続してコンテンツを大画面表示できる眼鏡型XRデバイスが普及しています.XRデバイス内に映し出されるバーチャルモニターは,サイズや配置,距離,角度,明るさを自由に調整可能であり,スペースが限られた場所でも広い画面領域で作業が可能です.また,周囲の人に画面を見られることがないため,秘匿性が高いデータを扱う際にも役立ちます.
そのうえ,COVID-19の影響でオフィス以外の場所でも働くスタイルが確立しつつあります.作業生産性を高める上で,複数のコンテンツを同時に管理・視覚化するために,より多くの画面領域が必要となりますが,自宅やオフィス以外の場所に大型ディスプレイやマルチモニターを導入する事は,物理的な制約や価格コストが大きな課題と考えられます.
そこで今回,最新XRデバイスでバーチャルモニター作業環境を構築し,従来の物理モニター作業環境下との作業生産性を比較しました.

検証方法

今回は次の観点で検証環境を選定し,表1に示す4種類の検証環境で作業生産性を比較しました.

  • AR/MR/VRそれぞれの眼鏡型デバイスで比較
  • 2画面以上のバーチャルモニターを同時表示
表1:選定XRデバイスと構築したバーチャル作業環境(視野角は対角の数値を記載)
XRデバイス 重量 視野角 バーチャル作業環境 同時表示画面数
Think Reality A3 130g[1] 47度[1] Virtual Display Manager[5] 5画面以上
HoloLens 2 556g[2] 52度[2] Mirage[6] 5画面
Meta Quest 2 503g[3] 113度[3] Immersed[7] 2画面(無料枠)
Meta Quest Pro 722g[4] 111度[4] Immersed[7] 2画面(無料枠)

全てのバーチャル作業環境において,接続PCはThinkPad P1 Gen 5(OS:Win11Pro, CPU:Core i7-12800H, メモリ:16GB, GPU:NVIDIA RTX A3000 Laptop 12GB)とし,作業タスクはプレゼン資料作成(Webブラウザでの情報収集含む),Unityソフトウェア開発(エディタはVisual Studio Code),XRデバイスは1日1台のみ使用かつ作業時間は1日最大2時間,に設定しました.
また,いずれのバーチャル作業環境も同時表示画面の内,1画面は接続PC画面のミラーリングとなります.

各バーチャル作業環境を図1-3で例示します.

図1:Think Reality A3の環境構築例.(上)専用ソフトウェア(Virtual Display Manager)で自由にレイアウト配置可能.(下)ATLプロジェクトページを表示したバーチャルモニターをグラス越しに撮影

図2:HoloLens 2の環境構築例.Windows Device PortalのMixed Reality Captureで撮影

図3:Meta Quest Proの環境構築例.Meta Quest Developer HubのCast Deviceで撮影.Meta Quest 2はパススルー機能が白黒となる以外は環境差異なし

比較結果

主観評価による比較結果を,表2に示します.

表2:主観評価による比較結果
XRデバイス 可読性 快適性 信頼性 疲労感
Think Reality A3 ×
HoloLens 2 ×
Meta Quest 2 ×
Meta Quest Pro ×

可読性の観点では,HoloLens 2は他デバイスより輝度が低く,文字の読みやすさは使用環境(周囲の壁や部屋の明かり)に大きく依存しました.
快適性の観点では,Meta Quest 2/Pro以外のデバイスでは視野角が狭いため,物理環境と比べて視界が制限されてしまい,画面間を移動するたびに頭部の動きが発生し,不快に感じました.特にThink Reality A3は有線接続のため,頭部の動きが制限される事も大きな課題と考えられます.
信頼性の観点では,HoloLens 2以外のデバイスではキーボードが見えにくく,しばしばタイプミスが発生しました.ユーザのタイピングスキルも重要と考えられます.
疲労感の観点では,重量が最も軽いThink Reality A3は疲労がほとんど無く,より長時間使用しても問題ないと感じました.Meta Quest 2はHoloLens 2と重量がほぼ同じだが,没入感が高い代わりに疲労を強く感じました.(Meta Quest Proも同様)

今回の検証結果からバーチャルモニター環境下の作業生産性について次の観点が考えられます.

  • 現状は物理作業環境と同等の作業生産性は困難だが,作業タスクは問題なく実施可能
  • バーチャル作業環境に慣れる事で作業生産性が向上する可能性はあり得る
  • 利用デバイスの選定では重量より視野角が重要
  • マルチモニターが視野に入る事が作業効率に影響
  • 現状はVRデバイスが最も作業しやすいが,疲労感やVR酔いの軽減が課題

おわりに

最新XRデバイスでバーチャルモニター作業環境を構築し,従来の物理モニター作業環境下との作業生産性を比較しました.今回は著者の主観評価となりますが,まだ物理モニター環境下と同等の作業生産性は困難だが,作業タスクは問題なく実施可能であること,AR/MR/VRの違いより,視野角の大きさが重要であることが分かりました.
HoloLens 2で本検証と類似した作業タスクを18人に実施した先行研究[8]では,バーチャルモニターは物理モニターに劣るものの,実現可能なアプローチであると考察しており,本検証結果は試行人数を増やしても同様の結果が得られると考えられます.
今後はXRデバイスの更なる進化に期待しつつ,バーチャルモニターの利点を活かせるユースケースだけではなく,物理とバーチャルの特徴を組み合わせた,ハイブリッド作業環境の可能性も検討します.リクルートATLでは引き続きXR技術の価値検証,そして事業化に挑戦していきます.

参考文献

  1. Think Reality A3 Spec
  2. HoloLens 2 Spec
  3. Quest 2 Spec
  4. Quest Pro Spec
  5. Lenovo Virtual Display Manager (VDM) (Windows 11 64bit/ 10 64bit) – ThinkPad
  6. Mirage
  7. immersed
  8. L. Pavanatto, C. North, D. A. Bowman, C. Badea and R. Stoakley, “Do we still need physical monitors? An evaluation of the usability of AR virtual monitors for productivity work,” 2021 IEEE Virtual Reality and 3D User Interfaces (VR), 2021, pp. 759-767, doi: 10.1109/VR50410.2021.00103.